データ管理・オンプレミスAI
工場データを守るオンプレミスLLMの管理設計
要点
オンプレミスLLMは、データを社外に出さずに生成AIを使える一方で、置き場所を社内にしただけでは、情報管理の問題は解決しません。権限の引き継ぎ、ログ、学習データの扱い、営業秘密や輸出管理の観点を設計に含める必要があります。本ページは、工場での導入時に確認すべき項目を整理します。
製造業の情報システム部門や品質保証の担当者から、「生成AIを使いたいが、図面や不具合報告書を外部サービスに入れてよいのか」という相談を多く受けます。顧客との秘密保持契約、自社の製造ノウハウ、従業員の個人情報など、外に出すべきでない情報が、工場の文書には多く含まれているためです。
オンプレミス(社内設置)または管理下のプライベート環境にLLMを置く構成は、この懸念への有力な答えです。ただし、「社内にあるから安全」ではなく、「社内の既存の権限と管理のルールがAIにも適用される」ように設計することが重要です。以下、その要点を整理します。
守るべき情報の種類を分ける
最初に、AIに読ませたい情報を分類します。一般的には、公開情報、社内限りの情報、顧客の秘密情報、営業秘密として管理している情報、個人情報、輸出管理の対象となる技術情報、に分けられます。分類ごとに、AIに読ませてよいか、誰に見せてよいか、ログをどう扱うかを決めます。
不正競争防止法上の営業秘密として保護されるには、秘密として管理されていること(秘密管理性)が必要です。経済産業省の営業秘密管理指針も参照されます。AIの導入によって、管理の水準が下がったと見なされないよう、アクセス制御と記録を整えておくことが肝要です。
- 顧客の秘密情報:契約上の取扱条件を確認し、対象外にするか隔離する
- 営業秘密:アクセス制御とログを既存の管理水準に合わせる
- 個人情報:個人情報保護法に沿って、利用目的と取扱いを確認する
- 輸出管理の対象技術:外為法の観点から、取扱いを別途確認する
権限の引き継ぎと検索範囲
最も事故が起きやすいのは、AIが、本来見られない文書の内容を回答に含めてしまうことです。ファイルサーバーやERPで設定された権限を、検索の段階で引き継ぎ、質問者が見られる文書だけを検索の対象にする設計が必要です。後から回答を検閲する方法は、漏れが起きやすいため、お勧めしません。
ERPのデータについても、ユーザーのロールに応じて読める範囲が異なるはずです。AIがERPに接続する際は、共通の強い権限のアカウントではなく、質問者の権限で問い合わせる構成にするか、少なくとも、閲覧範囲を明確に制限した読み取り専用のアカウントを使います。
ログ、学習、モデルの管理
質問と回答の履歴には、機密情報が含まれる可能性があります。保存する場合は、保存場所、保存期間、閲覧できる人を決めます。ログから不正な利用や情報の持ち出しの兆候を検知することも考えられますが、従業員の監視にあたる運用は、労使で目的と範囲を共有しておくことが望まれます。
モデルの追加学習(ファインチューニング)を行う場合は、学習データに顧客の秘密情報や個人情報が混ざらないようにします。多くの用途では、追加学習ではなく、検索で必要な文書を都度参照する方式(RAG)で足り、この方式のほうが、権限の管理や文書の削除に対応しやすくなります。
オープンウェイトのモデル(Llama、Qwen、Mistral、Gemma、gpt-ossなど)は、それぞれライセンス条件が異なります。商用利用の可否や、利用条件を確認したうえで選定します。
- 質問・回答の履歴の保存先、保存期間、閲覧権限を決める
- 原則として追加学習よりも検索型(RAG)を優先し、文書の削除に対応しやすくする
- モデルのライセンス条件(商用利用、再配布、用途の制限)を確認する
- モデルや索引の更新履歴を記録する
ハードウェアと運用の現実
社内にGPUサーバーを置く場合、必要な台数は、同時に使う人数と、使うモデルの大きさで決まります。数十人規模の部署での文書検索や要約であれば、中規模のモデルを数枚のGPUで動かす構成から始められることが多く、全社展開の前に小さく試すことができます。
一方で、運用の負担も現実的に考える必要があります。モデルやソフトウェアの更新、セキュリティパッチの適用、障害時の対応、GPUの故障対応などです。自社で運用する体制が取れない場合は、国内の閉域のプライベートクラウドで運用する選択肢もあります。
始め方と、クラウド型で足りる場合
まず、扱う文書の分類と、権限の持ち方を現状のまま棚卸しすることから始めます。そのうえで、一つの部署と一種類の文書(たとえば、不具合報告書だけ)を選んで試し、権限の引き継ぎ、回答の出典表示、ログの扱いを確認します。
扱う情報が公開情報や一般的な社内文書にとどまり、顧客の秘密情報を含まない用途であれば、契約条件が明確な事業者向けのクラウドサービスで十分な場合もあります。機密の程度に応じて、オンプレミスとクラウドを使い分けるのが現実的です。
よくある質問
オンプレミスにすれば、情報漏えいの心配はなくなりますか。
外部への送信のリスクは減りますが、社内での権限管理、ログ、持ち出しの管理は別途必要です。社内に置くことは、必要条件の一つに過ぎません。
ファインチューニングは必要ですか。
多くの文書検索や要約の用途では、必要ありません。検索型(RAG)のほうが、権限の管理や文書の削除に対応しやすく、運用も簡単です。
図面データも読み込ませてよいですか。
顧客との契約条件と、輸出管理の対象かどうかを確認してから決めてください。確認が済むまでは、対象外にするか、隔離した環境で扱うのが安全です。
従業員の質問履歴は、会社が見てもよいですか。
目的と範囲を明確にし、労使で共有しておくことをお勧めします。個人を特定した監視のためではなく、セキュリティと品質の確認を目的とする運用が望ましいです。
どのくらいの規模のGPUが必要ですか。
同時利用の人数、対象の文書量、選ぶモデルの大きさで決まります。小規模な部署から始め、利用状況を見て拡張する進め方がお勧めです。
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